恋愛小説

出会いはどこから

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Our heart

 

小説のような男女の恋愛ケースをとりあげるコーナーです。

100人いれば100通りの想いや悩みを抱え、日々生きているわたしたちですが、その1つ1つには、もしかしたら、何かしらの意味があるのかもしれません。

マイナスって本当にマイナスなのでしょうか。

​プラスって本当にプラスなのでしょうか。

​短編恋愛小説。

出会いはどこから


暗くなりかけの夕暮れ空の中、いつものように歩きアパートに着くと、ドアを開けた。

出迎えてくれるのは、ペットのケン。小型犬のビーグル。
ケンは、しっぽを振りながら、待っていましたとばかりに、わたしに擦り寄る。

毎日、仕事に行っては帰ってくるの繰り返しを続ける中、帰り道の途中にあるペットショップを外から見た時、子犬のケンと目があった。

ペット認可のアパートに住むわたしは、その切ない目をみて一目ぼれし、ケンを買うことにした。

結婚や恋愛を特に意識したことがなかったわたしが、心の拠り所になっていたのは、ケンの存在でした。
ですが、気づくと来年で三十路。それほど、明るくない性格のわたしは、友達も少なく、出会いもほとんどなかったので、ツィッターフォロしていた方の紹介のブログに書かれた結婚相談の案内をみてみた。
でも、すこし躊躇しているとケンが「ワンワン」と小さく励ますように鳴いたので、窓をクリックして、出会いを探してみることにした。

 

 

 

 

4月4日、一人目の男性、猪原(いのはら)さんとの出会いをはたしました。

正直、彼はわたしの好みではありませんでしたが、誠実そうな彼の人柄に惹かれたのか、何度か食事をすることになったのです。

 

彼はあまり似合わない・・・・青いスーツのジャケットを着て、中古で安く手に入れたという車でわたしのアパートまで送ってくれました。

最近、犬の調子が良くないことをドライブの途中で話題として話すと猪原は言った。

 

「昔、犬を飼っていたんですよ。弟が飼いたいとせがむから買ったんですけど、結局世話をしないからわたしが散歩させたり全部やってたんです。」

「そうなんですか。そういう話よく聞きますよね。」

 

「ですから犬の体調とかも少し分かりますから里奈さんのペットの様子診せて下さい。」

「はい。お願いします。」

アパートに戻るとケンは、スタスタと歩いてきて、里奈の手に頬を摺り寄せた。

その後、猪原の足にも擦り寄り、愛嬌良く振りまいたので

「何だか。僕のこと好きなのかもしれませんね。」と笑顔で里奈にいうと

 

「その子。愛嬌がいいので、誰にでも人見知りせずに、甘えるんです。いつもは、もっとはしゃいで近づくんですけど、元気がないのかも・・・・。」

「あ・・。そうですか・・・・。いつもはもっと甘える子なんですね・・。」と、犬に好かれる好印象の作戦が失敗したように猪原は、少し落ち込んだ。

猪原が頭を撫でると、首輪の札に”犬”と描かれた文字があるのに気がついた。

「首輪に”犬”いぬって書いてありますね・・。でも・・・みれば・・犬って誰でも解ると思いますけど・・・・。」

「あー。それですか。それは犬って書いて”ケン”って読むんですよ。その子の名前なんです。」

「あ。ケンちゃんなんだ。名前。」

「友達がペットの猫を飼っていたんですけど、その子の名前が”ネコ”って名前だったんです。わたしは”いぬ”って名前にしようかとも思ったんですけど、ちょっと言いにくいと思って”ケン”にしたんです。」

「そうなんですね・・・・。面白い名前ですね。ははは。」

雑談をしながら、猪原は、ケンの様子をうかがった。

「やっぱり、あまり調子よくないみたいですね。鼻が少し乾いているみたいですし・・・獣医さんに観てもらったほうがいいかもしれませんね。」

「そうですか・・・・。」

ケンは、猪原の手をペロペロなめて、ゆっくりと擦り寄った。


数日後、里奈が夜中に、ふと起きるとケンの様子がおかしいことに気づいた。

「ケン!大丈夫?」

ケンは、里奈の声にも反応しなかった。

 

少し口をあけて、目をつぶり、荒い息づかいをしているのをみて、里奈は慌てふためいて、夜中なのにもかかわらず、猪原に電話をかけた。

「どうしたんですか?」

 

「ケンが・・・ケンが息が荒くて・・・寝たまま動かないんです。」

「お腹、へこむぐらいの息づかいですか?」

「はい!」

「危ないかもしれませんね・・・。うちの犬もそういう症状で亡くなりましたから・・・」

「・・・・。」

「病院に連れて行ってください。」

 

里奈は、ケンにバスタオルをまいて抱え込み、近くの病院へと向かった。

夜間診察で観てくれた獣医も首を振るだけだった。

 

 

 

 

里奈は、何度も、ケンの名前を呼んだ。

でも、ケンの容態はよくなるどころか悪化していった。

数分後、ケンは、最後の力を振り絞って、目をあけて、優しい瞳で里奈の顔をみたあと、舌をだしたまま、息をひきとった。

一人暮らしをはじめた二十歳の時からいつも一緒にいてくれたケンは、里奈にとって家族だった。

そのケンが苦しそうに、亡くなる姿をみて、ショックを受けた。

里奈の手の甲に、涙が落ちた。

 

心配していた猪原が、里奈に電話をかけたが繋がらなかったので、里奈のアパートの外で待つことにした。

気を落として、里奈はゆっくりアパートに戻ってきた。

「大丈夫ですか?里奈さん。」

里奈は、猪原の顔をみると話はじめた。

「猪原さんごめんなさい。わたしケンが亡くなって、ショックで・・・」

「それはいいんですよ。そんなことがあったら誰でも落ち込みますよ。」

「わたし、ケンに押されて、結婚相談所に連絡したんです。」

「はい。」

「でも、そのケンが亡くなって・・・・。猪原さんごめんなさい。今回は、縁がなかったということにしてもらえませんか?」

少し、猪原は、手間取った。

「そうですか・・・・。残念です・・・・。里奈さんのことわたしは気に入ってたので・・・・。」

「わたし、正直猪原さんのこと好みじゃなくて・・・はじめの日から断ろうと思っていたんです・・・。」

「そうでしたか・・・。わたしのことは気にしないでください。それより、里奈さん、あまり気を落とさないようにしてくださいね。」

里奈は、猪原と別れると、部屋に戻り、悲しんだ。

 

ケンのいない部屋は、なぜか広く感じて、広い世界に自分ひとりのように思えるほど孤独が襲ってきた。

 

それでも時間は、過ぎ去り、朝になり、夜になって日が過ぎていった。


数日後の夕方、里奈は、毎日家に帰るのが、怖いと感じるようになっていた。仕事をしているほうが、気がはれたからだった。

アパートに帰るとそこに、猪原が立っていた。

「ごめんなさい。里奈さん・・・。断られたのに、また来るなんて、規則違反ですよね・・・。」

里奈は、なんだか、ほっとした。たったひとりのアパートに戻るのかと思っていたところに、猪原が自分を迎えてくれていたからだ。

「いえ、大丈夫ですよ。今日はどうしたんですか?」

「えと・・・。このスーツ覚えていますか?」

そのスーツは、あの時の青いスーツだった。似合っていないから、印象に残っていた。

「あー。はい。覚えていますけど・・・?」

「はじめて、里奈さんの部屋にいってケンちゃんと面会した時に着ていた服なんです。」

なんだろうといった感じで里奈は返事をした。

「はい・・・・。」

「今日の朝。この青いスーツを着た時に、気づいたんですけど・・・・これ。」
といって、猪原は、スーツのポケットからある物を出した。

「あ!それ!ケンのです。」

ポケットから出した物は、犬が甘噛みしやすいように、輪っかになったロープグッツだった。

「ケンは、それが好きで、絶対に手放さなかったのに・・・・。どうして・・・」

里奈は、そのロープをみて、走馬灯のように、ケンとの思い出がよみがえってきた。

思い出せば、結婚相談所の窓を開けた時からケンは、何かわたしにメッセージを送っていたような気がした。

自分の命があとわずかだと思って、もしかしたら、誰かわたしを助けてくれる人を望んでいたのかもしれないと空想した。

犬にそんな意思があるわけもなく、そんなことあるはずもないと思っても、でもどうして、猪原さんもポケットにロープが入ったことに気づかなかったのだろうと不思議に思った。

あれがポケットに入ったら気づかないものなのだろうか・・・。

ケンが「ワンワン」と鳴いているような気がして、少し右下に目線を泳がせた。

「猪原さん・・・・。」

猪原は嫌がられると思ってあせって説明しようとした。

「はい。ごめんなさい。今日は、これを返えそうと思っただけで・・・。」

「あ。いえ。あの・・・自分勝手なことをいうのかもしれないんですけど・・・」

「はい。」

「もう少し、わたしとお付き合いしてもらえませんか?」

猪原は、想定もしていなかった言葉に、驚いて、たじろいだ。

「え。え。えっと・・・。いい。いいんですか!?」

「猪原さんが、もし許してくださるのなら、前向きに考えたいんです。」

猪原は、大きく目をみひらいて、くったくな笑顔で

「是非!」

と返事をした。

里奈を10年間守ってきたケンは、猪原にそのバトンを渡した。

《fin》

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