恋愛小説

誤魔化しの人生

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Our heart

 

小説のような男女の恋愛ケースをとりあげるコーナーです。

100人いれば100通りの想いや悩みを抱え、日々生きているわたしたちですが、その1つ1つには、もしかしたら、何かしらの意味があるのかもしれません。

マイナスって本当にマイナスなのでしょうか。

​プラスって本当にプラスなのでしょうか。

​短編恋愛小説。

誤魔化しの人生


銀行に勤めて12年。はじめは銀行員として勤めていたものの住宅ローンへと出向し、今は企業に対して多くの投資を手がけている。不景気が長らく続くこの国では、多くの企業やベンチャー企業がお金を借りたいと願っているが、銀行側としては、リスクがある企業投資には高い金利を当て、利益を増やしていくことでしか、利益損の解消には追いつかないと拒否する一方だ。
中央銀行の新しい総裁は、お金の量を増やす金融政策に乗り出し、多くの企業にそのお金をまわすように銀行側にノルマを掲げさせているが、それを本気で行う銀行などはなく、そのほとんどは金融投資へと流れていっている現状だ。そのおかげで、一般人の給料が上がらないのにもかかわらず、物価だけが上がってしまう始末だ。買わない一般人と売れない企業に物価が上乗せすれば、景気のバランスが悪化するのは必至だ。
 

日ごろから損益を出さないためのリスク回避を頭の中にいれているストレスからか、最近はお酒の量が増えてしまっている。
見たくもないものも多く見てしまうのが企業投資部の嵯峨だろう。

 

そんな中、部長が

「出来る人間は、女性ともうまくやるものだ。」と言い出したことで、わたしに目が向けられ、時間のないわたしにお見合いをするように迫ってきた。

37歳にもなって独身を続けるわたしに、余計な気をまわしたのだろう。

とくには結婚を拒否する理由もなかったわたしだが、世の中の汚れたものをみていると、その気力さえなくなってくる。
だからといって、このまま何もせずにいれば、会社経由のお見合いをさせられ、断るにも断れなくなると危惧して、結婚相談所に登録してやり過ごそうと考えた。選べない不自由さよりは、選べる不自由さのほうが、まだましだからだ。

結婚相談所の説明を受けて、女性のリストをみせてもらった。
以外と普通に結婚していそうな人たちばかりが登録されていた。早く結婚という道を選ばないのは、今の時代の未来への希望を失っている価値観からなのだろうかと、自分のひねくれた考えに無理やり結婚を望む女性の経緯を重ねた。

ふと見ると、どこかで見たことがある女性の顔がリストの中にあった。その女性の名前は、吉田里穂。見覚えがあるのだけれど、思い出せずにいたが、何か気になって、その女性にコンタクトを取ることに決めた。

1週間後、両親とともにお見合いへと望んで、吉田さんのお父さんをみて驚いた。

5年前、企業投資部に配属されたばかりのわたしのお客だった吉田商会のお嬢さんだったと分かった。

「本木君、久しぶりだね。」

なるべく、驚いていない振りをしながら答えた。
「お久しぶりです。以前は、大変お世話になりました。長瀬銀行のご利用ありがとうございます。」

「いや、お世話になったのは、こちらの方だよ。その後も、長瀬銀行さんには融通をきかせてもらって、そのおかげで、会社も厳しい時を乗り越えて、今は業績もあがっているんだよ。」

「そうでしたか。お客様の業績があがることは、イコールわたしたちの業績に比例していますから、こちらこそ、取引を続けてくださって嬉しい限りです。」

 

「本木君。」

「はい。」

「君、わたしの娘だと知らずに、このお見合いに来たんじゃないのかい?」

 

「そ・・そんなことは・・・。」

「いやいや、いいんだよ。親の顔なんて写真でみないからね。分からなくても、しょうがないことだよ。」

 

「あ。でも、お嬢様には、どこかで逢ったような気がして、里穂さんを選ばせてもらったんですよ。」

「そうだったのか。確か、理穂が大学2年ぐらいの頃だったと思うから、その時に顔をみていたのかもしれないね。わたしも、君の写真を見た時、驚いたよ。どこかでみたぞと考えをみぐらせて、長瀬銀行の社員だとやっと思い出したんだよ。」

「そうでしたか。」

本木は、苦笑いをして、返した。
選択できない不自由さに近いお見合いを自分で選んだことに、なんともいえない気持ちになった。

お見合いは、順調に進んでいった。


吉田里穂という女性は、とても喜作な女性だった。会社経営者の娘というより、自由気ままに育てられたかのような自然派を大切にするタイプだろうか。お見合いの最中でも、きつく締められた着物をゆるめたりして、それを見ていたわたしに、恥ずかしげもなく、笑顔を向けるような女性だった。

 

その後も、二人で、何度か食事をして、二人の時間を過ごした。
理穂は、フラワー文化センターに行きたいと言い出した。彼女は、花が好きで、本当は、会社の事務仕事ではなく、花屋を開きたかったという話までしてくれた。

「その時には、本木銀行の財布のお金をどうか使ってください。」と言うと彼女は笑ってくれた。

彼女の気兼ねのない態度をみていると、氷のように固まってしまっている自分の心が溶かされていくように感じた。女性といるということは、こういうことだったのだろうか。

フラワーセンターには、花のツタが張り巡らされるようなアーチが、花壇にも、人が歩く道にもあり、色々な花が咲いて、アーチ橋というものまであった。理穂は、そのひとつひとつの花の名前まで教えてくれた。

彼女が好きな花は、すずらんで、花言葉は、【純潔・幸福が訪れる】などらしい。

その日から夢に彼女が出てくるようになったことに、自分で驚いた。
これが前向きな結婚の思考というものなのだろうかと思った。

いつも以上に、仕事に身が入り、多くの企業レポートを見直して、融資先を探した。

そんな日が数週間と経ち、結婚相談所から一本の電話がなった。
スマホに表示されたのをみて、希望を持って電話にでた。

相談所の人が言った。
「本木様。今回のお見合いの件ですが、先方からのお断りが入りまして、ご縁がなかったということに・・・。」

意外な言葉に、時間が止まった。

理穂と会っていた時、彼女はそんな素振りをまったくしていなかったからだ。お互い気に入ってるとばかり思っていた反面、とてもショックを受けた。

「――ですから、また本木様には、良いご縁をご紹介できますので、明後日などは、お時間はおありでしょうか?」

 

本木は、話を聞いていなかった。

「吉田さんは、里穂さんは、どうして、今回は、断ったのでしょうか。わたしに問題があったということですよね?」

 

「それは、こちらからは、申し上げかねます。本当にすみません。あと、一度お断りされた方には、ご連絡などは控えてくださいますように。お願い致します。」

 

本木は、考え込んだ。もっと笑顔をみせるべきだったのだろうか。気をゆるしきれていなかったことが、彼女の不満に写ったのだろうか。わたしの陰険な性格を彼女は見抜いたのかもしれない。やはり、おれは、どこか壊れているのかと落ち込んだ。

 

本木は、吉田商会の融資状況をみてみることにした。
すると、先週から吉田商会への融資がストップされていた。

本木は、上司に問い合わせてみた。

吉田商会の唯一の売上高の高い商品に、大手企業も目をつけ参入したことで、吉田商会との取引をストップさせ、大手にお金を流すという話だった。

「そんな一方的な取引が成立していいんですか?」
本木は、上司に強く発言した。

「何をいってるんだ。大手の新しい参入に、融資できるなんて、願ってもないことじゃないか。」

「だからといって、吉田商会の融資を止めるなんて、横暴すぎますよ。」

「大きな声を出すな。大手は、吉田商会と提携してでも、やっていこうと話を持ちかけたが、それをあちらが断ってきたらしい。大手を敵にまわしたのは、吉田社長の選択だ。大手から手をまわすようにするのが、条件の1つでもあったんだ。何十億もの融資に繋がる商談を断れるわけがないだろ。お前がやってるような小さな話じゃないだよ。これは。」

本木は、それでも食い下がった。

おれはバカなのか?と心の奥で考えた。いや、違う今までがバカだったんだ。利益損だの数字だの人格否定を肯定するような考え方ばかりに固執して、まるでロボットのように作業をこなしてきた。そんな自分こそがバカだったんだ。本木の心に、何かしらの変化をもたらしたのは、人間にあるべきものの何かだったのだと感じた。


その夜、本木は、理穂に会いに吉田邸まで行った。

仕事から帰ってきた理穂は、本木の姿をみて、申し訳なさそうに、頭をさげて、そそくさと家にはいっていこうとした。融資の件のことは、わたしには解らせないように、伏せたいという彼女の心づかいからだろう。

本木は、そんな里穂の足取りを止めるかのように、声をかけた。

「里穂さん!」

里穂は、立ち止まって、後ろ加減で少し振り向いた。

「融資の件聞いたよ。」

里穂は、本木に目を向けた。

「吉田商会に、長瀬銀行が融資を出さないようにしているのは、横暴な裏取引からなんだ。」

里穂は、驚いた顔で、本木をみた。
銀行の内情を話をするのは、情報漏えいにも値する本木の履歴に傷がつくかもしれないことをしていたからだ。

「裏取引?」

「そうなんだ。おれはそれを知ってから毎日のように、上司に抗議してるんだよ。」

「そんなことしたら・・・・本木さん大丈夫なの?」

「結婚相談所から断りの電話が入った時、里穂さんに認めてもらえなかったと落ち込んだんだ。恋愛を前向きにしてこなかったおれにとって、里穂さんとの出会いは、目を覚まさせてくれた出来事だったんだ。」

里穂は、あまり理解できないかのような雰囲気だった。

「でも、お見合いでの出会いでしょ?また違う人との出会いを大切にすればいいじゃない。わたしに関わると本木さんのお仕事に差し支えが出てきてしまうわ。」

「お見合いの出会いとお見合いではない出会いに、何か違いがあるとは、おれには、思えない。出会いは、出会いで、この時期に、あの結婚相談所のリストに入った出会いも、かなりの確率のものだよ。おれにとっては、大きな出会いだったんだ。」

吉田社長が家から出てきた。

「本木君。里穂に会いに来てくれたんだね。」

「すみません。本当は、会いに来たらいけないのに・・・。」

「話は少し聞いたよ。長瀬銀行さんにも、色々あるみたいだね。」

「はい・・・。本当に申し訳ありません。」
本木は、深く頭を下げた。

「君が謝ることじゃない。君は知らなかったことなんだろう。むしろ、何も説明せずに、お見合いを断ったこちらが、謝るべきだ。すまないことをしたね。」

「僕は、ゆるせないんです。融資を止める理由があるのならまだしも、吉田商会には、利益をあげる企業成果があるにも関わらず、一方的に取引を降りることは、長瀬銀行の信頼を無くすことでもあるからです。そんなことを続けていたら、いつかは、みなさんに見捨てられる銀行になってしまうと思うんです。なにより、許せないのは、12年も銀行につかり、それらが当たり前のように暮らしてきた自分の決断力のなさです。それに気づかせてくれた里穂さんとご家族には、とても感謝しているんです。」

吉田社長は、里穂に微笑みながら話しかけた。

「里穂。どうする?吉田商会と長瀬銀行の商談は、無くなるかもしれないが、お前たちの商談は、お前たちで続けるかは、決めなさい。お見合いを断らせたのも、本木君が銀行業務に差支えが出るかもしれないと思ったからだ。本木君がいいというのなら、わたしたちは、止めることはしないよ。」

里穂は、少し考えて、答えた。

「正直。わたしは、どうして本木さんみたいな方が、わたしのことをそこまで想ってくださるのか分からないです。もっと素敵な人を見つけようと思えば、出来るんですからね。

でも、本木さんの言葉には、裏がないってわたし感じるんです。少なくとも、今は、わたしたち家族のために、行動してくれているから・・・。もしよければ、わたしも、もっと本木さんのことを知りたいと思います。」

本木は、真剣な表情で、返事を返した。

「是非。お願いします。」

その後、本木は、銀行を辞め、吉田商会の融資担当のひとりとして雇ってもらった。元上司は、言い過ぎたと本木を止めようとしたが、本木の意思は硬かった。

そして、本木は、銀行員のスキルと人脈を使って、大手銀行の融資を取り付けることに成功した。

その日の夜。里穂は、本木に出会うと、走りより、お互い抱きしめあった。

 

本木は、抱きつく里穂の両肩に手を置き、二人の間隔をあけると、内ポケットから白いすずらんの花を一輪出して、理穂に差し出した。

「これがわたしの夢を叶えるためのあなたからの最初の融資ね。」
と里穂が言うと、本木はわらった。

二人は、今年中に結婚する予定だ。

《fin》

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