Our heart
小説のような男女の恋愛ケースをとりあげるコーナーです。
100人いれば100通りの想いや悩みを抱え、日々生きているわたしたちですが、その1つ1つには、もしかしたら、何かしらの意味があるのかもしれません。
マイナスって本当にマイナスなのでしょうか。
プラスって本当にプラスなのでしょうか。
短編恋愛小説。
Contents
思い込みのすれ違い。
わたし(八雲美由紀)は20歳の時に、大好きな男性と結婚をした。
高校時代から憧れて、付き合っていた人だった。
彼と一緒にいるだけで胸がどきどきして、幸せすぎるほど心が高ぶった。
目をあわせることもできないほど、好きだった人と3年付き合った結果、結婚したのだ。
何がなんなのか解らないうちに、結婚式は流れて、まるでジェットコースターに乗ったような気分のまま結婚した。
でも、今は彼は私の隣にはいない。
彼もわたしのことが好きだったはずなのに、彼は「冷めた」という言葉を小さくつぶやくようになっていった。
高校時代、あんなに好きだったのに、その気持ちが二人とも思い出せなくなった。
彼はその容姿にかこつけて夜も帰ってこない日もあった。
わたしの両親は、別れなさいという意見でかたまり、多額の慰謝料を彼に請求して、離婚した。
死ぬほど好きだった彼と結婚したのに、それが今では不幸のはじまりだったような気さえしてきた。
32歳になっても、その傷は癒えなかったけれど、薬局店で働いて、寂しさを感じ、幸せな結婚を望んで、結婚相談所に登録をした。
「八雲様の理想の男性は、どんな方ですか?」
男性結婚カウンセラーは、幸せ雰囲気で理想像を聞いてきた。
「わたしは、あまり容姿がよくないひとがいいです。」
というと、カウンセラーの少し驚いたような間が逆に面白かった。
「そそうなんですね。でも、見た目が良い方でもいいですよね?」
「前の夫が、そういう人で、浮気をしょっちゅうしてたので・・・。」
「そういうことでしたか・・・いらぬことを伺って申し訳ありませんでした。」
「気になさらないでください。わたしは見た目より、安心して一緒に過ごしてくれるような人が、出来ればいいですね。」
「なるほどー。」
そして、登録された男性を何人かみせてもらった。
その中に、ぽっちゃりした優しそうな男性がひとりいたので、その人とセッティングできるかどうか解り次第連絡するということで話は終わった。
35歳らしいけど、もっと上にみえるような男性だったと思いながら、連絡を待った。
数日後、地元の動物園の前で会うことになり、30分も早い9:30には、待ち合わせ場所に着いて待っていた。
人々が行きかうのを横目でみながら、数分の時間を過ごした。
少し、離れたところで、花束を持った男性が、女性に声をかけた。
「は・はじめまして、山田哲平と申します。これどうぞ、受け取ってください!」
というと、その女性が
「きゃー」と言いながら、逃げて行ってしまった。美由紀は、可愛そうにとおもって、見ないようにして、気づかなかった振りをした。
すると、男性が声をかけてきた
「あ・あのー。八雲美由紀さんですか?」
さっき女性に逃げられた人だった!
「は。はい!」
彼はさっきと同じ上に目線をかかげて、直立不動で
「は・はじめまして、山田哲平と申します。これどうぞ、受け取ってください。」
とさっきと同じ言葉で、さっきと同じように花束を前に差し出してきた。
「あ・ありがとうございます・・・・。」
美由紀は、クスクス笑いながらちょっと言ってみた。
「でも、さっき・・・間違えましたよね?」
ドキっとしたのか、哲平はたじろぎながら
「あ・・あ。えっと・・あれは、あ・えー・・と。練習です。練習させてもらってたんです。」
「って・・・練習にしては、女性逃げていきましたけどね。」
美由紀は、笑った。
「すみません・・・。」
美由紀はフォローするように
「写真と実物は、違って見えますし、さっきの人、少しわたしに似てましたからね。間違えますよね。」
といって、クスクスクスと笑った。
動物園の前で渡された花束をみて美由紀は、少し考えた。
「花は綺麗なんですけど、これを持ったまま動物園を歩き回るのはちょっと、恥ずかしいかも・・・」
哲平は少しあわてたように、小刻みに両腕を前に出して、困った顔をした。
美由紀は、またフォローするように
「お花が可愛そうですけど、コインロッカーの中にでも入れておきましょうか。」
「あー。そうですね。」
と哲平はやっと笑顔になって、二人でコインロッカーを探した。光も入らない狭いロッカーの中に、花をいれて、動物をみてまわった。
山田哲平という男性は、写真の想像通り、優しい人で、何をするにしても、気にかけてくれた。
でも、なぜかそれが、どこか奥の方で、煩わしく感じた。
前の夫は、まったくわたしに気を使わなかった。わたしが気を使ってしてあげても、それが当たり前のように、何でもわたしにさせた。いつしか、大きなこどもを持った母親のような気分になり、わたしは召使さんとして雇われたの?と思うほどだった。
それが嫌で、哲平さんのような方を理想として、出会わせてもらったのに、いつの間にか、前の夫と見比べてしまう自分がいて、申し訳ない気分にもなってきてしまった。
「あまり気になさらないでくださいね。わたしは大丈夫ですから。」
哲平は、笑顔で
「わたし今日、はじめてのお見合いでして、とてもはりきっちゃってるんです!」
「そうだったんですか。わたしも、今日がはじめてのお見合いなんです。」
「おー。同じですね。でも、美由紀さんのような方から声がかかってくるなんて、本当に思いもよりませんでした!」
「なんとなく、写真の哲平さんが優しそうにみえたので・・・・。」
「ですか!優しさには、自信があります。わたし!」
美由紀は、元気な哲平の態度と言葉を聞いて、苦笑いになってしまった。
数週間のうちに、何回か二人はデートを重ねた。
でも、美由紀の中では、正反対の前の夫と哲平を比べてしまい、まだ心のどこかで、前の夫のことが好きなのかという、かすかな想いが嫌でたまらなかった。
哲平は、美由紀と会うごとに、好きになっていくようで、美由紀に対して、心の動揺を隠しきれずにいたが、美由紀は、哲平と会っても、1ミリも心を動かそうとはしなかった。
それは、前の夫とは、心の動揺、恋心だけで突き走り、その結果最悪の事態になったことが、美由紀の心のブレーキになっていた。感情だけで突き走るのは、怖くてしょうがなかったのだ。
そんな美由紀は、哲平に対して、申し訳ない気持ちがあり、今日のこの夜のデートで最後にしょうと考えていた。あまりにも、哲平が力一杯、自分のために、何かをしようとしてくれているのが、また心を痛めるのだった。
二人は、夜景が綺麗にみえる穴場スポットで、星をみながら楽しんだ。哲平は意外にも、星のことについて詳しかった。
美由紀は、常に優しくしてくれる哲平に質問した。
「哲平さんは、どうしてそんなに、わたしに優しくしてくれるの?」
哲平は、ためらうことなく断言するように言った。
「愛です!」
少し驚いた美由紀は言い返した。
「愛?」
「はい!愛です。」
「愛って・・・わたしたち、まだ逢ったばかりじゃないですか・・・。」
「いえ、違います。愛です。」
「ん?」
美由紀は、よくわからなくて、変な返事をしてしまった。数回のデートで恋愛の主導権は、あきらかに、美由紀にあったせいもある。
哲平は、右手を二人の間の頭の上に持っていき、まるで見えない丸いボールがそこにあるかのような手のしぐさをしながら
「わたしと美由紀さんが会ってからの愛じゃなく、ぼくだたちが逢う前からずっとある”愛”なんです。」
「愛ですか・・・」
美由紀はよく解らなくて、口が滑った。
「わたしは、愛というのは、あまり好きじゃないです。」
哲平は
「そうなんですか?」
と聞きなおしてきた。
それに、ハっとして
「ごめんなさい。お見合い相手にそんなこというなんて・・・・。」
「いえ、いいですよ。でも、どうして愛が好きじゃないんですか?」
「愛ってこっちがいくら与えても、実らないものもあると思うからです。」
美由紀は、全身全霊を持って、夫を愛した。愛して、愛して、耐えに耐えた結果があれだったからだ。
哲平は、少し暗い雰囲気の美由紀の言葉を聞いて、明るく言った。
「実りますよ。実ります。」
その言葉と明るさに、美由紀は少しカチンときた。
「与えても、与えても、それに気づかない人もいるんです!」
哲平は言った。
「美由紀さん。でもね。今は無理でも、いつかどこかで気づく時が来るんですよ。ぼくはそれを信じているし、それを続けていくつもりです。」
美由紀は、死ぬ気で愛した相手に裏切られた心の傷が、心と脳の記憶に、あふれ出し始めて、ものすごく嫌な気持ちに襲われ哲平にぶつけるように言ってしまった。
「哲平さんは、いつも能天気だからそう思ってるだけで、世の中には、沢山傷ついている人もいるんです!どうしても、その裏切れた傷が刺さって、立ち直れないほどの体験をした人には、そんな言葉は言わないほうがいいですよ。」
美由紀は、涙目で胸の服を握り締め、少し丸まった体制になった。
哲平は聞いた。
「それは前いっていた結婚されていた方のことですか?」
「高校時代からずっと好きだった人だったんです・・・。わたしの青春時代は、すべてあの人に捧げてきて、死ぬほど愛した人だったんです。毎日、毎日、いつかはまた元に戻れると信じてきたのに、結局、ふたりとも戻れなかったんです。もう数年経って、忘れたと思っていたのに、こうやってお見合いをするたびに、また思い出してしまうんです・・・哲平さんには申し訳ないと思いながら・・・本当にごめんなさい・・・。今回は、ご縁がなかったということにしましょう・・・。」
哲平は、美由紀の肩に手を差し伸べながら、気持ちが高ぶっている美由紀をそばのベンチに座らせて、ゆっくりと話はじめた。哲平はたんたんと自分がお見合いをしようとした理由を話した。
美由紀は、哲平の長い話を聞き終わると、大粒の涙を流しながら、謝った。
「ご・・ごめんなさい・・・。て・・哲平さん・・・。わ・・・わたし・・・」
あまりにも泣いて、言葉が美由紀はうまく出せないまま、謝り続けた。
「わたし・・・わたしだけが・・・世の中で一番不幸だって・・・思い込んでた・・・。哲平さんは・・・能天気だからって決め付けて・・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。わたしなんて・・・」
哲平も泣いていたが、自分よりも先にハンカチを美由紀の手に渡してあげた。
少し落ち着いた美由紀は、優しい哲平に言った。
「わたしのこと愛してくれる・・・・?」
「もちろんですよ。」
「わたしのこと好きじゃなくなったりしない?」
哲平は、自分の胸を右手でドンドンと叩いた。
「ぼくの愛は、この胸の愛じゃないですから。」
そして、さっきのように右手を上にあげて
「ぼくの愛は、この愛ですから。」と言った。
美由紀は、笑顔で言った。
「わたしの傷は、ものすごく重いですよ?」
哲平は、右腕の力こぶをみせながら
「普段から小麦粉を持ち運びしてるんです。荷物を持つのは、得意です!」
と笑った。
「美由紀さんにも、傷があるから、おれの気持ちも解ってもらえたと思うんです。美由紀さんの今までの苦労も、おれと一緒に宝物にしましょう。」
美由紀は言った。
「あなたに出会えて、本当によかった・・・。あなたに会わなければわたしはずっと過去を引きずっていたかも・・・。それに、もし最初にあなたがわたしと出会っていなければ、他の人にあなたの愛を与えてたでしょうね。」
哲平は
「運命ですね。」
と笑った。
「あと、パン屋で働いてるから収入少ないですよ?」
「わたしが望んでるのは、安心だから収入なんて関係ないの。」
とにこやかに、美由紀は答えた。
二人は、順調にお付き合いを続けて、結婚することに決めた。
美由紀は、哲平の腕を離そうとはしなかった。
哲平はそんな美由紀をみながら、突然思い出したかのように言った。
「あ!そういえば」
「なに!?」
「おれ言ってないことあった・・・」
「え?なに?」
「二人で星を見に行った時、星に詳しかったでしょ。」
「うん。」
「あれ、実は・・・デートする前にネット検索して、女の子が喜ぶ天体観察っていうところから、カンニングしてきただけで・・・本当は、星に詳しくないんだ・・・。」
「それが何よ。」
「星に詳しいおれに惚れられてたらと思ってね・・・・。」
「全然関係ないから!」
と美由紀はつっこみを入れた。
《fin》
哲平の理由の内容は、次回の男性編ケース2に続く