恋愛小説

山田哲平

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Our heart

 

小説のような男女の恋愛ケースをとりあげるコーナーです。

100人いれば100通りの想いや悩みを抱え、日々生きているわたしたちですが、その1つ1つには、もしかしたら、何かしらの意味があるのかもしれません。

マイナスって本当にマイナスなのでしょうか。

​プラスって本当にプラスなのでしょうか。

​短編恋愛小説。

山田哲平

*この小説は、ケース女性2の続きの小説です。読まれていない方はケース女性2からどうぞ。


夕方、パン屋のお店を片付けている時に、哲平の携帯が鳴った。

哲平は、友達の純の表示をみて、肩とアゴに携帯を挟みながら、片付けを続けた。

「哲平。すまん。」

「おー。純。どうした?こっちも、片付けしながら電話で、すまんな。」

「・・・・。哲平。お前、好きな人とか今いるのか。」

「突然、何だよ。」

「お前にもし、好きな人ができたら、1秒でも、一滴でも、多くその人のことを愛してやれ。おれは、それが出来なかった。家族のためだと理由をつけて、家族のために時間を使ってこなかった。おれは最低な人間だ。」

哲平は、純の様子がおかしいのに気づいて、片付けるのを止めて、話を続けた。

「お前大丈夫か?今どこにいるんだ?」

「ここか?ここは・・・楠木ビルの屋上だ。」

「おー。なつかしいな。みっちゃんも一緒か?」

「哲平・・・。ごめん。本当に、ごめん。」

 

その後、哲平は、店長に短く説明したあと、店を飛び出すように出て行った。

 

 

数日過ぎて、哲平は、お店に出た。

店長は、驚いた顔で言った。

「テっちゃん!お前。大丈夫かい?まだ、仕事しないほうがいいんじゃないのか?」

「店長。働かせてください。働いていたほうが、気が休まるんです。」

「そうかい・・・・。いいけど・・無理するんじゃないよ。いつでも休んでいいからな。」

「ありがとうございます。あー。それと店長。」

「なんだ?」

「おれ、お見合いします!」

「は?お見合い?」

「はい。お見合いです。」

「お見合いってあの結婚するお見合いかい。」

「はい。」

「は?なんでそうなるんだい。」

「前を向かなくっちゃいけないっす。」

「よくわからんが・・・結婚するにしても、うちの給料で来てくれる人なんているんかえ。」

「フラレまくると思うんですけど、100回ぐらいお見合いしたら、一人ぐらいは来てくれるでしょ。」

店長は関心するように言った。

「テっちゃんは、本当に、凄いな。」

哲平は、結婚相談所に登録をして、面談を受けた。

そして、数日後、結婚カウンセラーの連絡を受けて、自分とお見合いがしたいという女性をネットで確認をして、相談所に電話をした。

「あのー。ぼくとお見合いをしたいと言ってくれた女性は、僕の年収とかも解ってるんですかね?」

女性結婚カウンセラーは呈よく答えた。

「わたしは面談はしていませんが、年収のことも山田様は隠さず申請されていたので、伝わっているはずですよ。」

「そうなんですね。ネットでみた女性があまりにも綺麗だったので、何かの手違いかと思いまして・・・。」

「内容まではお話できませんが・・・・」

カウンセラーは小声になって

「1つバツがついてらっしゃるんです。いわゆるワケありというところですね。ネットで観てもらえば、相手方もちゃんと隠さず、申請されていますので、確認できるかと思います。」

「そうですか。でも、ワケありでよかったです。」

「はい?」

「いやー。何も傷ついていない女性だとわたしの場合、理解してもらえないかと思いましてね。わたしもワケありですので。」

カウンセラーは、口には出さなかったが、傷つけられたのではなく、傷つけた側かもしれないのに、と思った。

「一度、お会いしてください。山田様のはじめてのお見合い相手です。うまくいくように、願っております。」


哲平は”男は見かけじゃない。根性だ!”というサイトをみて、予習し、デートの日を迎えた。

手ぶらはいけないと9時に開く花屋を検索したが、ほとんどが10時から開店だったので、直接、お店に向かった。

花屋さんに頼み込んでなんとか、9:30に花束を手に入れ、気合をもって動物園に向かった。

心の中で、ハキハキ、男は根性と繰り返した。

9:50に動物園の近くまでなんとか辿りついたが、うまく行くかどうか解らず少し緊張してきたので、首をまわしたり、足首や手首をまわしたり、屈伸をしたあと、練習で言ってみた。

「は・・はじめまして、山田哲平と申します。これを受け取ってください!」
と、腕を伸ばして、花束を前に出し、発声練習も兼ねて言ってみたら、目の前に、見知らぬ女性が立っていた・・・。

「あ・・・」

と哲平は声がもれた。

「キャー」
と女性は、逃げていってしまった。

逃げなくてもいいのに・・・と思いながら、八雲美由紀という女性を探した。

すると、反対方向を向いた女性がいたので、あの人かと思い声をかけた。

「あ・あのー。八雲美由紀さんですか?」

「は。はい!」

美由紀さんは、反対方向をみていたから、聞こえていないはず、さっき練習した通りにやるんだ!根性だ!と思いながら哲平は言った。

「は・はじめまして、山田哲平と申します。これどうぞ、受け取ってください。」

 

「あ・ありがとうございます・・・・。」

美由紀は、クスクス笑いながらちょっと言ってみた。

「でも、さっき・・・間違えましたよね?」

哲平は、聞こえていたのか!と動揺して、たじろぎながら説明しようとした。

「あ・・あ。えっと・・あれは、あ・えー・・と。練習です。練習させてもらってたんです。」

「って・・・練習にしては、女性逃げていきましたけどね。」
美由紀は、笑った。

勘違いされたかもしれないが、男は言い訳をしない!と心で思いながら謝った。
「すみません・・・。」

美由紀はフォローするように
「写真と実物は、違って見えますし、さっきの人、少しわたしに似てましたからね。間違えますよね。」
といって、クスクスクスと笑った。

哲平は、練習なのに・・・と思いながら苦笑いをした。

動物園の前で渡された花束をみて美由紀は、なにか考えている様子だった。

「花は綺麗なんですけど、これを持ったまま動物園を歩き回るのはちょっと、恥ずかしいかも・・・」

哲平は少しあわてたように、小刻みに両腕を前に出して、困った顔をしながら
あのサイト、花をもらって喜ばない女性はいないって書いてあったのに、嘘ばっかりだな・・・と思った。

美由紀は、またフォローするように
「お花が可愛そうですけど、コインロッカーの中にでも入れておきましょうか。」

「あー。そうですね。」
と哲平はやっと笑顔になって、二人でコインロッカーを探した。光も入らない狭いロッカーの中に、花をいれて、動物をみてまわった。

 

 

 

 

 

数週間の間に二人は何度か会った。

デートがうまくいくように哲平はネットで色々調べた。

夜景が嫌いな女性はいないという記事をみて、この場所のこの時期の星の位置と名前や物語りなどを暗記した。

そして、美由紀に電話をして夜に会うことになり、二人で穴場スポットの夜景をみにいき、過ごした。

 

美由紀は、常に優しくしてくれる哲平に質問した。

「哲平さんは、どうしてそんなに、わたしに優しくしてくれるの?」

哲平は、ためらうことなく断言するように言った。

「愛です!」

少し驚いた美由紀は言い返した。

「愛?」

「はい!愛です。」

「愛って・・・わたしたち、まだ逢ったばかりじゃないですか・・・。」

「いえ、違います。愛です。」

「ん?」
美由紀は、よくわからなくて、変な返事をしてしまった。

数回のデートで恋愛の主導権は、あきらかに、美由紀にあったせいもある。

哲平は、右手を二人の間の頭の上に持っていき、まるで見えない丸いボールがそこにあるかのような手のしぐさをしながら

「わたしと美由紀さんが会ってからの愛じゃなく、ぼくだたちが逢う前からずっとある”愛”なんです。」

「愛ですか・・・わたしは、愛というのは、あまり好きじゃないです。」

哲平は

「そうなんですか?」
と聞きなおしてきた。

美由紀は謝ってきた。

「ごめんなさい。お見合い相手にそんなこというなんて・・・・。」

「いえ、いいですよ。でも、どうして愛が好きじゃないんですか?」

「愛ってこっちがいくら与えても、実らないものもあると思うからです。」

哲平は愛を見失っているひとをほっとける人間ではなかった。
その見失った原因は、過去による傷であってもだ。そして、自分にも言い聞かせたいのか、哲平は励ますように明るく言った。

「実りますよ。実ります。」

その言葉を聞いたからか、美由紀の表情が険しくなり、強めの言葉が哲平に返ってきた。

「与えても、与えても、それに気づかない人もいるんです!」

哲平は言った。
「美由紀さん。でもね。今は無理でも、いつかどこかで気づく時が来るんですよ。ぼくはそれを信じているし、それを続けていくつもりです。」

美由紀の目は哲平を睨んでは、下を向きと感情的に反発した様子になり、我慢できなくなったように言葉が飛び出した。

「哲平さんは、いつも能天気だからそう思ってるだけで、世の中には、沢山傷ついている人もいるんです!どうしても、その裏切れた傷が刺さって、立ち直れないほどの体験をした人には、そんな言葉は言わないほうがいいですよ。」

美由紀は、涙目で胸の服を握り締め、少し丸まった体制になった。

哲平は聞いた。

「それは前いっていた結婚されていた方のことですか?」

「高校時代からずっと好きだった人だったんです・・・。わたしの青春時代は、すべてあの人に捧げてきて、死ぬほど愛した人だったんです。毎日、毎日、いつかはまた元に戻れると信じてきたのに、結局、ふたりとも戻れなかったんです。もう数年経って、忘れたと思っていたのに、こうやってお見合いをするたびに、また思い出してしまうんです・・・哲平さんには申し訳ないと思いながら・・・本当にごめんなさい・・・。今回は、ご縁がなかったということにしましょう・・・。」

哲平は、美由紀の肩に手を差し伸べながら、気持ちが高ぶっている美由紀をそばのベンチに座らせて、ゆっくりと話はじめた。哲平はたんたんと自分がお見合いをしようとした理由を話した。


山田哲平は、幼い頃から能天気にみえる優しい子だった。

そんな哲平に、小学校高学年の時、親友と呼べる友達ができた。それが中村純だった。

純と哲平は、自転車を乗り回しては、町中を走り、ドライブを楽しんだ。

ふたりは、いつも仲良く、まるで兄弟のように過ごしていった。

中学の時、哲平は、好きな子ができた。
哲平は、女の子を好きになるということが今まで分からなかったけれど、その子をみると”好きだ”という言葉が自然と心で響いた。

その子の名前は、井上美代といった。

あまり目立たない子として、周りからは思われていたけれど、哲平の目からすると、その長くて黒いクセ毛の奥にひそむ彼女の綺麗な顔がまるで天使のように映ったのだ。

彼女の笑顔はとてもかわいくて、心の中が純粋だと分かる笑顔だった。でも、あまりみんなからは何故か好かれていなかったせいか、どこか控えめの彼女の態度が、また同じく目立たない哲平の目からは、共感してしまう一面だった。

哲平は、そんな気持ちを純に話した。

中学生だった純は、友達の恋愛話をはじめて聞いて興奮しながら、止める哲平の声も聞かずに、応援するといって、美代ちゃんに声をかけて、三人で遊ぶようになった。

高校になっても三人は、よく集まっては、くだらないことで楽しんだりした。

哲平は美代に好きだということはいえずにいた。この三人の関係がずっと続くほうがよかったからだ。

三人は学校をさぼっては、誰にも見つからない楠木ビルの屋上で寝転がって過ごした。
さぼるという行為がまた映画かドラマの冒険のように思えて楽しめた。

 

美代は、中学・高校と大人になるにつれて綺麗になっていった。
小中学からの悪い繋がりが高校になってきれたことで、彼女も女性としておしゃれに目が向けれるようになったからだった。純と哲平という友達も心のささえになったし、おしゃれをすれば、いつも二人は褒めてくれた。

純と美代は、高校を卒業すると大学へと進学した。

哲平は、世界を一度はみてみたいとフランスへと留学することにした。

2年間、哲平はフランスで過ごし、アルバイトでパン屋を選んで働いた。

日本に帰国すると純と美代が嬉しそうに、帰りを喜んでくれた。

哲平は、純と美代に、フランスのことを沢山話した。

二人は、哲平に対して、とても笑顔で話しをしてくれたが、なぜか、純と美代は、よそよそしく、前とは違う雰囲気が漂っていた。

ある日、純は、哲平に謝ってきた。

「哲平。すまん。」

「どうしたの?純ちゃん。」

「お前がフランスに行っている間、おれと美代は、変わらず二人であっていたんだ。」

何を謝ることがあるんだと解らずに答えた。
「うん。それがどうしたんだ?」

気づかない哲平に純はハッキリと言った。
「おれ美代と付き合ってるんだ・・・。」

それを聞いて、哲平は、世界が揺らいだ。目の前がグラグラと貧血も起こしてもないのに、揺れたんだ。

中学の頃からずっと美代のことが好きで、フランスにいってからも、彼女を忘れたことはなかったからだ。哲平にとって美代の存在は、光そのものだった。その美代とは二度と結ばれないという現実が、哲平に打ち付けられた。

動揺を隠しきれない哲平をみて、純は心配した。
「大丈夫か?」

「うん・・・。大丈夫・・・・。いつから?」

純は心配しながら慎重に話した。
「去年の冬からだね。お前に申し訳ないと思いながらも、二人であったりしていたら、おれも・・・・美代のことを・・・。ごめん。」

「謝ることじゃないよ。純ちゃん。フランスにいったおれが悪いだけだ。ただね。正直・・・・ちょっとね・・・・でも、純ちゃんがどうのこうのじゃなくて・・・・そんなんじゃなくて・・・・。ずっと好きだったから・・・・。」

「うん・・・・。すまん。」

純と美代は、大学を卒業すると結婚した。

 

哲平も二人を心から祝福した。

哲平の中では、もう二度と女性を好きになることはないだろうと思いながら過ごした。それほど、美代のことを好きだったからだ。

でも、フランスに行った時に関わったパン屋の仕事を日本でもできるようにと、探し当てて、働き始めた。

時間が経つにつれ、哲平の心は、癒されていった。

 

純と美代が幸せに過ごせているのなら、哲平は満足だった。好きな人が幸せならそれが一番の自分の幸せだと思えたからだ。別に自分が彼女を幸せにするまでもなく、彼女が幸せならそれでよかった。

純は変わらず、哲平と仲良くしていたが、あまり家庭のことは口にすることはしなかった。

どこかで、哲平に申し訳ないという気持ちが、彼にはあったからだろう。

二人の間にこどもが生まれ、小夜という名前をつけた。

 

哲平も含めた三人は、新しい仲間が生まれたと喜んだ。


そんな日々が続いていた時に、純から電話があった。

「哲平。すまん。」

 

「おー。純。どうした?こっちも、片付けしながら電話で、すまんな。」

「・・・・。哲平。お前、好きな人とか今いるのか。」

「突然、何だよ。」

「お前にもし、好きな人ができたら、1秒でも、一滴でも、多くその人のことを愛してやれ。おれは、それが出来なかった。家族のためだと理由をつけて、家族のために時間を使ってこなかった。おれは最低な人間だ。」

哲平は、純の様子がおかしいのに気づいて、片付けるのを止めて、話を続けた。

「お前大丈夫か?今どこにいるんだ?」

「ここか?ここは・・・楠木ビルの屋上だ。」

 

「おー。なつかしいな。みっちゃんも一緒か?」

「哲平・・・。ごめん。本当に、ごめん。おれは、お前から美代を奪って・・・・その重荷を背負って、必ず美代を幸せにしなければいけない。小夜を幸せにしなければいけないとおもって・・・・仕事を頑張ったんだ・・・・。それがお前を裏切ったおれの報いだと思っていたからだ。」

哲平は心配になってきた。
「純。何かあったのか?大丈夫か?」

「ごめん・・・哲平・・・・。美代と小夜が・・・・。うぇええ。うぇえ。」

純がおえつを出しているのを聞いて哲平は大きな声を出した。

「純ちゃん!どうした?大丈夫か?!」

「美代と小夜が、事故にまきこまれて・・・・死んだ・・・。」

哲平の時間が止まった。走馬灯のように、美代との思い出がよみがえってきた。みている世界が消えて、当時の美代が目の前にあらわれ、多くの笑顔をこっちに向けている世界がみえた。ひとつひとつの美代との思い出が、流れていくようだった。小夜ちゃんが生まれたその日のことも思い出した。

その世界から呼び戻したのは、純の声だった。

「おれは美代と小夜に、何もできなかった・・・お前はおれみたいにはなるな。好きな人がいたら、嫌がられても、その人のために精一杯のことをしろ。おれはもうダメだ・・・・。美代と小夜が目の前で・・・隣で・・死んだのをみて・・・・生きていけない・・・・。お前はおれたちの分まで幸せになってくれ・・・・。」

哲平は叫んだ。
「絶対、死ぬな!死んだら一生ゆるさないぞ!待ってろ。おれが行くから、絶対にまってろ!」

大きな声を出す哲平を心配して、店長が奥から顔を出した。

「テっちゃん大丈夫か?」

「店長!友達が・・おれ行かないと!また説明します!」

「おう。」

哲平は店を飛び出すように携帯を耳にあてながら出て行った。

「純ちゃん!純。待ってろよ。すぐ行くから!」

純は、小さい声で話した。

「お前と美代が結ばれていたら・・・・美代は・・・・」
といって携帯が切れた。

哲平は、切れた携帯を何度もかけなおしたが

「電波の届かないところか、電源がはいっていないため」

と流れるだけだった。

 

通りすがりのタクシーを無理やり止めて、楠木ビルへ向かわせた。

哲平は、タクシーを降りて、ビルの屋上を見上げたが、純はみえない。

「きゃー」という声がビルの向こう側から聞こえた。

哲平は、もしやと思い恐る恐るその方向へと走っていった。角を曲がると純の体があらぬ方向にまがったまま地面に倒れていた。

「純ー!」

哲平は震える両手を前にだして、ゆっくりと近づき、純の頭を持ったが、純は息をしていなかった。

小学校の頃からいつも一緒にいた純が、息をせず目の前に倒れている現実が理解できなかった。

「純・・・・純・・・どうして・・・どうして・・・」

どうして俺を待たなかったんだ・・。あと少しでも早くつけていたら・・・。

ショックを受けたまま、哲平が純の横で地面に座りこんでいると、救急車がやってきて、純を運んでいった。

警察は事情を聞きたいと哲平の話を聞いた。そして、哲平を純の遺体がある安置所に連れて行った。

すると純の横に、二人の遺体があった。

美代と小夜だ。

哲平は耐えられなくなって、後ろに倒れそうになったが、警察が支えてくれた。

警察は、身元確認を頼んだので、純の顔をみたあと、二人に被せられた白い布を取ると、確かに美代だった。

哲平は大粒の涙を流した。

 

愛するひとたちが安置所で横一列に並んで一斉にいなくなったことに、耐え切れなかった。

警察は心配して、哲平を家まで送ったが、哲平は普段は、飲まないはずのお酒を買った。高いアルコール度数のお酒だった。誰にはばかれるでもなく、二本のお酒を持ち歩き、外で泣きながら飲んだ。

酔いつぶれた哲平はいつの間にか、パン屋の前で倒れていた。

店長が二階から降りてきて、哲平を発見したが、ひどい酔い方をしていたので、中にいれて、安静にさせた。

店長は、哲平の家に電話をして事情を聞くと、納得したように家に泊まらせた。

哲平は目を覚ます店長がいたが、ひどい二日酔いで、フラフラしながら、家に帰えりお酒をまた飲んだ。

数日後、純の両親が哲平に会いに来た。

毎日、酔いつぶれていると哲平の親から聞かされたが、事情を本人から聞きたいからと会うことを望んだ。葬式にも出なかった哲平を心配したのだ。

哲平は純の両親の前で
「おれが三人を殺したんです・・・。」
と言った。

「純は死ぬ前、おれへの償いだといって・・・仕事のしすぎで、美代と小夜を幸せにできなかったと・・・・おれが・・・おれのせいで、三人は・・・。おれの目の前で・・・純は・・・おれがもっと早く着いていれば・・・純だけは助けられたはず・・・」

「しっかりしなさい。」
とおばさんは、哲平のほほを叩いた。

哲平は焦点があわない目で、おばさんの顔をみた。

「三人が死んだのは、事故だったのよ。あなたのせいじゃない。あなたは関係ないのよ。」

「純は・・・純が最後に電話してきたのはおれで・・・」

おばさんは泣きながら言った。
「三人の不幸をあなたも背負う必要はないでしょ。あなたまで不幸になったら、三人はどう思うのよ!」

その言葉を聞いて、哲平は思い出した。

 

純はいっていた。

「おれは美代と小夜に、何もできなかった。お前はおれみたいにはなるな。好きな人がいたら、嫌がられても、その人のために精一杯のことをしろ。好きな人を幸せにしろ。」と

哲平は現実から逃げようとお酒を飲んだが、おばさんの言葉を聞き、純の言葉を思い出して、やっと現実の世界に目を覚ました。

正座をして純の両親に謝った。

「すみません。三人の姿をみて・・・動揺して・・・・。葬式!葬式は?」

「昨日終わったよ。」

「おれは葬式にも出ずに・・・」

「それはいいの。でも、あなたまで不幸になったら、ゆるさないからね。純たちの分まで、幸せになりなさい。」

哲平は涙を流しながら、うなずいた。


哲平に対して、夜空の綺麗な星がみえる夜に、ひどい言葉をあびせた美由紀は、哲平の話を聞いて泣いた。

「それで、おれは考えたんです。おれの見た目じゃモテないし、低所得だし、好きなひとを見つけるのは難しい。でも、純の遺言を破棄するわけにもいかない。だから結婚相談所に登録して、前進しようと決めたんです。そして、お見合いの相手に、おれが出来ることを精一杯やろうって・・・。おれのことを理解してくれる女性なら尚更、精一杯のことをしようって思ったんです。もちろん、三人のことは忘れることはできないから、今も心が痛いけど、おれは負けられないんです。三人のためにも、幸せになって、好きなひとを幸せにしなければいけないんです。純の親からの約束でもあるんです。」

 

美由紀は、哲平の長い話を聞き終わると、大粒の涙を流しながら、謝った。

「ご・・ごめんなさい・・・。て・・哲平さん・・・。わ・・・わたし・・・」

あまりにも泣いて、言葉が美由紀はうまく出せないまま、謝り続けた。

「わたし・・・わたしだけが・・・世の中で一番不幸だって・・・思い込んでた・・・。哲平さんは・・・能天気だからって決め付けて・・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。わたしなんて・・・」

哲平も泣いていたが、自分よりも先にハンカチを美由紀の手に渡してあげた。

少し落ち着いた美由紀は、優しい哲平に言った。

「わたしのこと愛してくれる・・・・?」

「もちろんですよ。」

「わたしのこと好きじゃなくなったりしない?」

哲平は、自分の胸を右手でドンドンと叩いた。
「ぼくの愛は、この胸の愛じゃないですから。」

そして、さっきのように右手を上にあげて
「ぼくの愛は、この愛ですから。」と言った。

美由紀は、笑顔で言った。

「わたしの傷は、ものすごく重いよ?」

哲平は、右腕の力こぶをみせながら
「普段から小麦粉を持ち運びしてるんです。荷物を持つのは、得意です!」
と笑った。

「美由紀さんにも、傷があるから、おれの気持ちも解ってもらえたと思うんです。美由紀さんの今までの苦労も、おれと一緒に宝物にしましょう。」

美由紀は言った。

「あなたに出会えて、本当によかった・・・。あなたに会わなければわたしはずっと過去を引きずっていたかも・・・。それに、もし最初にあなたがわたしと出会っていなければ、他の人にあなたの愛を与えてたでしょうね。」

哲平は
「運命ですね。」
と笑った。

「あと、パン屋で働いてるから収入少ないですよ?」

「わたしが望んでるのは、安心だから収入なんて関係ないの。」

とにこやかに、美由紀は答えた。

 

 

 

二人は、順調にお付き合いを続けて、結婚することに決めた。

美由紀は、哲平の腕を離そうとはしなかった。

哲平はそんな美由紀をみながら、突然思い出したかのように言った。

「あ!そういえば」

「なに!?」

「おれ言ってないことあった・・・」

「え?なに?」

「二人で星を見に行った時、星に詳しかったでしょ。」

「うん。」

「あれ、実は・・・デートする前にネット検索して、女の子が喜ぶ天体観察っていうところから、カンニングしてきただけで・・・本当は、星に詳しくないんだ・・・。」

「それが何よ。」

「星に詳しいおれに惚れられてたらと思ってね・・・・。」

「全然関係ないから!」
と美由紀はつっこみを入れた。

《fin》

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